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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1545号 判決 1998年7月03日

東京都中央区<以下省略>

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

澤辺朝雄

神戸市<以下省略>

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

右訴訟代理人弁護士

阿部篤

主文

一  本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、一三五万八二五九円及びこれに対する平成七年八月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は第一・二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  右部分につき被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  附帯控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、四五二万七五三〇円及びこれに対する平成七年八月一一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。

第二事案の概要

(以下、控訴人を「被告」・被控訴人を「原告」と略称する。)

本件は、原告が株式投資信託契約に基づいて被告に交付した一〇〇〇万円のうち償還後の損失金四五二万七五三〇円について、右損失は被告の証券外務員の説明義務違反・不当勧誘・適合性原則違反等の違法な勧誘行為により生じたものであるとして、債務不履行を理由とする契約の解除(解約)に基づく不当利得返還ないし原状回復と、不法行為による損害賠償とを選択的に求めた事案である。

一  争いのない事実等(認定事実は末尾に証拠を掲記した)

1  原告は、昭和一〇年○月生まれであり、夫の跡を継いで工事用道路保安用品のリース等を業とする訴外株式会社a(以下「訴外会社」という)の代表取締役に就任している。

被告は大蔵大臣の免許を受けて証券業を営む会社であり、B(以下「B」という)は被告西宮支店に勤務していた証券外務員である。

2  原告は、Bの勧誘を受けて、平成元年一〇月二日、被告から単位型・無分配型・成長型の株式投資信託「ファンド一九九三(89-10)」(信託期間満了日平成五年一〇月五日・クローズド期間四年間)一〇〇〇口(一口一万円)(以下、「本件ファンド」という)を買い付け、平成元年一〇月四日、右買付代金一〇〇〇万円を被告宛に振込入金した。

3  本件ファンドの運用実績(基準価額一口一万円に対する価額)は次のとおりであった。

第一期(平成二年一〇月五日決算)

七〇七二円(二九二八円の下落)

第二期(平成三年一〇月五日決算)

七一五七円(二八四三円の下落)

第三期(平成四年一〇月五日決算)

五二一九円(四七八一円の下落)

第四期(平成五年一〇月五日決算)

六〇一二円(三九八八円の下落)

本件ファンドは信託期間が三年間延長され、平成八年一〇月五日が償還日とされた。延長後の運用実績は次のとおりであった。

第五期(平成六年一〇月五日決算)

五七六〇円(四二四〇円の下落)

第六期(平成七年一〇月五日決算)

四八一三円(五一八七円の下落)

そして、原告は、信託期間満了の平成八年一〇月に満期償還金五四七万二四七〇円の支払を受けたので、本件ファンドの運用結果は四五二万七五三〇円の損失であった。

4  株式投資信託とは、信託財産を委託者の指図に基づいて特定の株式に投資して運用することを目的とする信託であり、具体的には、委託会社を委託者とし信託会社又は信託業務を営む銀行を受託者(受託会社)として信託契約が締結され、この信託契約に基づいて発生した株式投資信託の受益権は均等に分割された受益証券に表示され、この受益証券の所有者が受益者となるものである。この受益証券の募集又は売出し業務の取扱いを行うのが被告のような証券会社である(乙二、三、弁論の全趣旨)。

5  本件ファンドの特徴である四年満期・単位型・成長型・無分配型とは、それぞれ次のような内容のものである。すなわち、

(一) 四年満期とは、投資信託設定日より四年後の日に信託期間満了日(満期償還日)が定められていることをいう。

(二) 単位型とは、追加型に対するものである。追加型は、最初に募集された信託の基金の上に次々と追加設定を行って一個の大きな基金として運用するもので、多くは信託期間がない反面、原則として時価に基づく売買が自由であり株式に準じた投資対象としての性格をもっていて、信託期間の制約がなく時間的分散投資が容易であり、基金が単一であるため管理費用が軽減される等の利点を有する。これに対し、単位型は、募集された資金が一個の独立した単位として信託運用されて追加設定を許さず、信託期間が定められている点に特色があり、投資者にとって長期的な貯蓄対象としての性格が強く、運用面でも計画的な長期投資の実を上げ得る利点を有する。

単位型株式投資信託には、ユニット投信、ファミリー・ファンドと呼ばれる定期定形型商品と、株式普通型、規模別重点型、インデックス型等数多くの種類のスポット商品とがあるが、このスポット商品は商品性格により成長型、安定成長型、安定型の三種に分類されている。

(三) 成長型は、株式を中心に投資するもので株式の組入限度に制限はなく、安定成長型は株式の組入限度を七〇%とするものであり、安定型は株式の組入限度を五〇%とするものである。

(四) 無分配型は、信託期間の中途で収益を分配せず、信託期間満了時においてまとめて収益分配を行うこととされているものである。

(五) さらに、本件ファンドのクローズド期間は信託期間である四年間であって、信託期間満了時まで換金はできないこととなっている。

(六) 株式投資信託とは、運用の対象に株式が含まれているものをいう。

6  原告は、本件ファンド以外にもBの勧誘を受けて被告との証券取引を行っていたが、その内容と経過は別紙「原告の金融商品売買経過表」のとおりであった。

二  争点

Bの勧誘行為には次のような違法性があったか。

1  説明義務違反

2  不当勧誘行為

3  適合性原則違反

4  忠実義務違反

三  争点に関する双方の主張

原判決一二頁五行目から同四八頁二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実等に証拠(甲五の一・二、乙一ないし四、六・七の各一・二、八の一ないし三、九、一〇の一ないし三、一四ないし一六、証人Bの原審・当審証言、原審・当審における原告本人尋問の結果)を総合すると、以下の事実が認められる。

1  訴外会社は原告の夫が代表取締役として経営に当たっていたが、昭和五一年多額の負債を抱えて倒産した。原告は、昭和五四年夫と離婚したうえ、夫に代わって訴外会社の代表取締役に就任しその再建に当たった結果、同会社を年約二億円前後の売上実績を示すまでに立ち直らせた。そして、平成七年一月の阪神大震災当時までに会社名義で約五〇坪の土地とその地上建物を所有し、原告個人としても自宅の土地建物を無担保で所有し約一億円の預金を有するまでに至っていた。

2  Bは、昭和六一年四月に被告に入社し、西宮支店営業課に配属されて平成元年一一月まで同支店に勤務した。Bは、入社直後から社内研修を受けて昭和六一年五月末頃証券外務員の資格を取得し、同年六月頃被告推奨の株式売買を勧誘するため飛び込みの形で原告を訪問したが、株式売買には応じてもらえなかった。

その後も、Bは、幾度となく原告を訪問して証券取引を勧誘した結果、原告は、昭和六一年八月から平成元年三月にかけて、被告との間に前記「経過表」記載のとおり、一〇回にわたり株式売買あるいは投資信託の取引を行った。すなわち、

(一) 昭和六一年八月に四年満期・無分配型・単位型の株式投資信託「コミュニケーション・アンド・ネットワークファンド」三〇〇口を三〇〇万円で買い付け、これを昭和六三年九月に売り付けて約三〇万円の利益を得た。

(二) 昭和六二年一月にブリティッシュガス株二万株を約三三〇万円で買い付け、これを同年三月に売り付けて約六〇万円の利益を得た。

(三) 昭和六二年三月にNTT株一株を約二八九万円で買い付け(後に平成元年一二月に売り付けて約一五〇万円の損失を受け)た。

(四) 昭和六二年六月に五年満期・三年間無分配型・単位型の株式投資信託「フェニックスセレクトファンド」三〇〇口を三〇〇万円で買い付け(後に平成二年六月に売り付けて約四六万円の利益を得)た。

(五) 昭和六二年七月に追加型・成長型の株式投資信託「レインボーファンド」を五〇〇万円で買い付け、これを同月と翌八月に分けて売り付け約一五万円の利益を得た。

(六) 昭和六二年八月に無分配型の株式投資信託「新システムポートフォリオ87-08」五〇〇口を五〇〇万円で買い付け、これを平成元年八月に売り付けて約五八万円の利益を得た。

(七) 昭和六三年一月にダンアンドブラッド株一〇〇株を約七〇万円で買い付け、これを同年三月に売り付けて約八万円の損失を受けた。

(八) 昭和六三年二月に昭和飛行機の転換社債一〇〇〇口を一〇〇万円で買い付け、これを同年五月に売り付けて約八万円の利益を得た。

(九) 昭和六三年七月に石川島播磨重工業株三〇〇〇株を約三四二万円で買い付け、これを同年一一月に売り付けて約五〇万円の利益を得た。

(一〇) 平成元年三月に永谷園の転換社債一〇〇〇口を一〇〇万円で買い付け、これを同年六月に売り付けて約三六〇〇円の損失を受けた。

3  原告は、Bから勧誘を受けるまで証券取引の経験はなく、Bの勧誘を受けても当初は株式売買はしたくないと言って断っていたが、Bからファンドは株式売買より安全で定期預金のようなものであり、しかも定期預金より配当が良いと聞かされ、一旦ファンドを購入しても換金は比較的自由であると説明されたことから、著名な被告の推奨する証券取引であることからくる安心感も手伝って、前記のような証券取引を承諾したものであった。

原告は、比較的堅実な証券取引を希望しており、特に株式売買は避けたい気持ちであったので、証券取引を開始したものの、株式売買に関しては幾度もBに電話をして値動きを聞き、少しでも上昇していれば短期間で売却した。ダンアンドブラッド株については値下り傾向が続いていると聞き、不安になって短期で売却したものであった。また、株式投資信託に関しても、前記レインボーファンドのように償還期間の短いものについては所定の期間経過後直ちに売り付けて、大きな利得を狙うよりは損失を避けることに主眼を置いていた。転換社債に関しても、株と同様に長期に保有して激しい値動きをすることを恐れて、できるだけ短期間で売却していた。

原告の証券取引はいずれもBの推奨する銘柄を購入したものであるが、右にみたように、原告は、損失の危険を覚悟で大きな利益を獲得しようとするのではなく、小幅であっても利益が確保できれば取引を終了して、できる限り損失を避けた安定的な取引をする傾向にあった。

ところが、Bの度重なる推奨と当時の一般の人気に押されて購入したNTT株が購入直後から値下がりを続け、さらに昭和六二年一〇月二〇日のいわゆるブラックマンデーには株価一般が大暴落したことから、原告は、株式売買の怖さを一層痛感していた。

4  本件ファンドは、関西企業を中心とした約二〇〇銘柄の株式に投資して運用することを目的に被告が設立したもので、投資総額は約六五〇億円・募集期間は平成元年九月二五日から同年一〇月四日までであった。

Bは、本件ファンドを販売するため原告を訪ね、本件ファンドは購入金額が一〇〇〇万円と高額であるが、単なる株式売買とは異なり将来の発展が期待される関西企業を中心とした株式投資であって高率の配当が見込めること、いままでBが原告に推奨したファンドで損失を出したものはないこと、人気が高くて購入希望者が多く残りが少ないことなどを説明し、原告が四年満期で償還期限が長いことを理由に尻込みすると、定期預金を預けたつもりでそれより高い利率の配当があると考えれば定期預金と比較して決して損ではないなどと説得して、繰り返し本件ファンドの購入を勧めた。原告がなおも心配して「元本は本当に大丈夫ですか。」と尋ねたのに対しても、Bは「大丈夫です。」と答えた。

そのため、原告は、本件ファンドは購入金額が高く償還期限も長いが定期預金の利率と比較しても有利であり、元本を割り込む心配もないと判断して、その購入を承諾した。そして、定期預金を解約したうえ、平成元年一〇月四日、本件ファンドの代金一〇〇〇万円を被告に入金した。

5  右勧誘の際、Bは本件ファンドに関する説明資料を持参していたが、口頭で説明したのみでそれを原告に交付しなかったので、平成元年一〇月六日、説明用のパンフレットを持参し改めてこれを原告に交付した。

右資料を読んだ原告は、末尾に小さく「値動きのある証券に投資しますので、元金が保証されているものではありません。」と記載されているのを見て驚き、すぐに被告西宮支店に電話をして本件ファンドにつき元金が保証されているのか否かを確認した。同支店の担当課長は元金の保証はない旨返答したので、原告はすぐに本件ファンドの解約を申し入れたが、入金後は解約できないとの返事であった。

原告はその後も同支店に幾度も連絡して本件ファンドの解約を求めたが、いずれもできないとの返答であった。

6  被告では、証券投資信託法二〇条の二に従い、本件ファンドにつき顧客交付用の説明資料として「受益証券説明書・ファンド一九九三(89-10)」を作成していたが、Bは本件ファンドの勧誘に際し、原告にこれを交付していなかった。右受益証券説明書には表紙裏に「株式投資信託は元金が保証されているものではない」旨が太枠に囲まれて明記してある。

二  被告は、本件ファンドの勧誘において、Bはパンフレット・受益証券説明書・社内勉強用資料を持参してそれに基づき元本保証のないことを説明し、パンフレットは原告に交付したと主張し、証人Bの原審・当審証言中にはこれに沿う部分がある。

しかし、Bが説明用の資料を持参してその内容を説明したのであれば、何故に右資料を原告に交付しなかったのか不自然であるし、特に受益証券説明書は顧客に交付するための資料であるのに、パンフレットのみを交付して受益証券説明書を交付しなかった理由を合理的に理解することは不可能である。

原告は、前記一5に認定のとおり、後日パンフレットの交付を受け、その内容を読んですぐさま、被告西宮支店にBの説明内容とパンフレットの記載内容が異なるとして本件ファンドの解約を申し入れているのであって、その行動に照らしても、事前にBが右各資料を原告に交付しその内容を説明していたとは到底認めることができない。

右B証言を信用することはできず、被告の右主張は採用できない。

三  本件ファンド勧誘における説明義務

1  一般投資家が自発の意思で証券取引を申し込む場合はともかくとして、証券外務員が特定の銘柄を推奨して一般投資家を証券取引に勧誘するときは、顧客が既に当該投資商品の取引を熟知している場合を除き、原則として当該商品の取引に不可欠な商品の構造や、商品価格の変動の仕組み、取引による利得や損失の危険などについて十分な説明を行い、それについて顧客の理解を得たうえで、顧客自らの責任と判断で取引ができるよう配慮すべき信義則上の義務があるといわなければならない。

本件ファンドのような株式投資信託にあっては、証券会社を窓口として募集された出資金が委託会社から受託会社に信託され、受託会社から株式市場に投資されて運用されるものであるから、証券外務員は、少なくとも、その仕組みと、投資先の株式価格の変動如何によっては損失を招き出資元金の返還も保証されるものでないことについて、顧客に説明しその理解を得るべき義務があるというべきである。

証券外務員が証券会社の推奨する投資商品の販売を優先するあまり、一般投資家が自らの判断で証券投資をするに必要な商品の内容・特性・危険性などにつき具体的で十分な説明をせず、その点について顧客の理解と納得を得ないまま、楽観的かつ安易な見通しのみを告げて勧誘を行うことは、証券取引法や証券投資信託法の定める一般投資家保護の精神に反するものとして許されず、私法上も違法となるというべきである。

2  前記一で認定した事実によれば、本件において、Bは、本件ファンドを勧誘するに当たり、高額の資金を出資することに不安を抱く原告に対し、いままで推奨したファンドで損失を出したことがなかったことを説明し、その実績を背景に、本件ファンドが将来性のある関西企業への株式投資であって高率の配当が見込めることや、定期預金よりも安定性があって有利であるかのような説明をして、安全で有利な側面のみを楽観的かつ安易に強調し、また、顧客用の説明資料である「受益証券説明書」には本件ファンドでは元本が保証されるものではない旨が明記されているのにこれを原告に交付せず、その説明もあえて省略したもので、証券取引を勧誘する際に欠かしてはならない投資商品の危険性に関する説明を省き、結局、本件ファンドにおいてあたかも元本が保証されているかのように印象付ける勧誘姿勢に終始したものであったといえ、そのため、原告は、Bの説明を聞き、従前の株式投資信託の実績からみても、本件ファンドの運用によって出資元金を割り込むことはないと判断し、その出資を応諾したものと認めることができる。

してみると、本件において、Bは、一般投資家を株式投資信託に勧誘するに当たり、一般投資家保護のために証券外務員に要求される説明義務を尽くさなかった違法があるものといわなければならない。

3  被告は、本件ファンドの取引以前にも原告に株式投資信託の経験のあることを挙げて、本件ファンドにおいても元本保証のないことは原告も承知していたはずであると主張する。

原告が本件ファンドの取引以前にも株式投資信託の経験があったことは前記のとおりである。しかし、以前の投資信託においてBが商品内容や危険性につきどのような説明をしていたかは必ずしも明らかではないうえ、原告は以前の投資信託においてはいずれも利益を上げており、元本を割り込んだ経験がなかったのであるから、むしろ改めて危険性について具体的な説明をしなければ、過去の経験に依存したまま元本保証があるかのように理解していたともいえるのであって、過去の経験が直ちに元本保証のないことを原告が承知していた根拠となるものではない。

のみならず、商品特性は各投資商品ごとに異なるのであるから、本件ファンドにおいてBが元本保証があるかのような言動をして勧誘を行い元本保証のない旨を明確に説明していない以上、右経験があるからといって(それが後記の過失相殺において斟酌すべき事情に当たることはともかくとして)、本件ファンドにつき原告が損失の危険性を具体的に認識していたとまでは認めることができない。

4  してみると、Bの本件ファンドの勧誘行為は説明義務に違反した不法行為を構成するもので、被告は、民法七一五条に基き原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

四  損害と過失相殺

1  原告が本件ファンドの取引により四五二万七五三〇円の損害を被ったことは前記のとおりである。

2  しかし、原告の右損害全額を被告に賠償させるのは相当ではない。すなわち、前記のとおり、原告は本件ファンドの取引に先立ち同種の株式投資信託を四度行った経験を有しているのであり、投資信託取引が未経験とはいえないこと、他に短期間ながら株式売買や転換社債購入の経験も幾度かあって、少額ながらそれによる損失をも経験していること、右経験からすれば、本件ファンドの取引においてもBの口頭での説明のみで取引を応諾せず、受益証券説明書のような文書による内容説明を求め、それを検討したうえで取引に応じるか否かを決断することも容易であったと窺われること、過去の投資信託で利益を上げた経験から本件ファンドにおいてもさらなる利得を得ることを目的としてあえて多額の投資を行っていること、原告は当時約一億円に近い預金を有していて投資資力の面では証券投資の適格性を有していたこと、会社経営者として社会的な判断力に欠ける点はないことなどの事情を斟酌すると、本件ファンドでの損失の発生については原告にも相当な落ち度があったものといわざるを得ず、本件における勧誘行為の違法性の内容・程度、損害額その他からみて、過失相殺として原告の右損害額から七割を控除した額を被告に負担させるのが相当と判断される。

3  したがって、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償として一三五万八二五九円及びこれに対する平成七年八月一一日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第四結論

以上の次第で、これと異なる原判決は一部(遅延損害金の部分)不当であるから本判決主文第一項のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

<以下省略>

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